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始動装置



エンジンを始動させるには、外部からクランクシャフトを回さなければならない。

農業機械で使われるエンジンは、一部の小型ガソリン・エンジンを除き自動車同様にセル・モータ(スタータ)が使われている。


スタータはバッテリ電源で回転させるが、とても大きな力が必要なため主に直流直巻モータを用いている。

直流直巻モータの特性として、負荷が掛かった時は回転数が低いがトルクは大きく、逆に負荷が少なくなってくるとトルクは減少するが、回転数は次第に高くなる。

回転数が負荷と共に著しく変化する事から、短時間に強いトルクを必要とするスタータには最適である。


エンジンが大きい大型の機械では、スタータは大きな回転トルクを得るため、アーマチュアとピニオン・ギヤの間に減速ギヤを使って、モータの回転を減速するリダクション装置付スタータが使われる事があるが、一般的なスタータは、減速ギヤのない下図にあるような電磁ピニオン摺動式のスタータが使われる。

また、スタータは始動時に流れる大電流を断続するスタータ・リレーを使っているものが多い。

電磁ピニオン摺動式スタータの作動
リダクション装置付きスタータの構造、機能
スタータの取り扱い



◎電磁ピニオン摺動式スタータの作動



電磁ピニオン摺動式スタータの作動図(スタータOFF時)電磁ピニオン摺動式スタータの作動図(スタータON時)

キー・スイッチをスタータ位置に入れる(スタータ・スイッチが閉じる)と、スタータの始動端子にバッテリ電圧が掛かり、バッテリからの電流がプルイン・コイルとホールディング・コイルに流れ、プランジャを吸引する。

そうなるとプランジャはドライブ・レバーを引っ張り、ピニオンをフライホイールのリング・ギヤに噛み合わせる。

この時、プルイン・コイルに流れる電流は、モータ部のフィールド・コイルを経てアーマチュアに流れるので、モータはゆっくり回転し、ピニオンとリング・ギヤの嚙み合いを円滑にしている。

ピニオンとリング・ギヤの嚙み合いが完了すると、メイン・スイッチが閉じモータは直接バッテリと接続されるので、強力な回転力を発生しフライホイールを回してエンジンを始動する。


エンジン始動後、キー・スイッチがスタータ位置(スタータ・スイッチが閉じている)のままの場合は、オーバ・ランニング・クラッチが作動し、エンジン側からモータが逆に駆動されるのを防いでいる。

このような保護機能が付いてはいるが、基本的にはエンジンが始動したら、すぐにキー・スイッチをON位置(スタータ・スイッチが開く)にしないとスタータは故障する。


キー・スイッチを切る(スタータ・スイッチが開く)と、マグネット・コイルへの通電は停止するので、プランジャはスプリングの力で元の位置に戻り、ブレーキ装置が働きモータは停止する。



◎リダクション装置付きスタータの構造、機能



減速装置付きスタータと始動回路

モータ部



アーマチュア


シャフト、コア、そしてこれらと絶縁されているアーマチュア・コイル、コンミテータなどから成る。

シャフトは両端をベアリングで保持し、ポール・コア間を回転する。

アーマチュア・コイルは、大電流を流す必要があるので断面積の大きい平角銅線が使われ、コイルの一方がN極側、他方がS極側にくるようにコアの溝の中に絶縁されて挿入されている。

そして、コイルの両端はそれぞれコンミテータにハンダ付けされている。


ヨーク、ポール・コア


ヨークは鉄製の筒でいわゆるモータの外枠である。

上図では分かり難いがアーマチュアを囲んでいる外筒である。

そして、磁力線の通路になる以外に、内面にはフィールド・コイルを支持し磁極となるポール・コアが固定されている。


フィールド・コイル


アーマチュア・コイル同様大電流が流れ、同様に平角銅線が使われる。

フィールド・コイルに流れる大電流はポール・コアに強力な磁力線を発生させ、モータの回転力を大きくする。


ブラシ


ブラシは普通4個あるが、そのうち2つは絶縁されたホルダに支えられ、他の2つはアースされたホルダに支えられて、それぞれスプリングに圧されながらコンミテータに接触している。

スタータのブラシは、電流容量の大きい金属黒鉛質のものが使われる。


ベアリング(軸受け)


上図のリダクション装置付きスタータでは、オーバ・ランニング・クラッチのハウジング軸受けにボール・ベアリングが使われている。

しかし他の箇所や通常(リダクション装置がない)のスタータでは、スタータ荷重が大きく使用時間が短いので、殆どの場合で軸受けにはブッシュが使われ、ブッシュには油が良く潤滑するように溝が切ってある。



 

動力伝達部



オーバ・ランニング・クラッチ


アーマチュア・シャフトに発生した回転力は、シャフト上に切られたねじスプラインよりピニオンヘと伝達されるが、この中間にオーバ・ランニング・クラッチがある。

これは、エンジン始動後にエンジン側からモータ部が逆に回されるのを防止するものである。

オーバ・ランニング・クラッチはローラ式、ダブル・ローラ式、多板クラッチ式がある。


ピニオン・ギヤ


フライホイールのリング・ギヤと噛み合うギヤである。

このギヤがリング・ギヤと噛み合って回転して、初めてエンジン始動させることができる。

ピニオン・ギヤの歯数は、フライホイールのリング・ギヤに対して10~15:1の減速比で回転するようになっている。


リダクション装置


アーマチュアとピニオン・ギヤ間に減速ギヤを組み込んだ装置で、いわゆる減速装置である。

減速ギヤを組み込むことで、モータの回転トルクを約3倍にすることができる。

したがって、モータを小型にすることができる。


ブレーキ装置


エンジン始動に失敗して、再びスタータを回すときピニオン回転が止まっていないと、ピニオン・ギヤとリング・ギヤがうまく噛み合わないので、アーマチュア・シャフトにブレーキ装置を取り付けている。

ブレーキ装置は機械式が多く用いられ、遠心式、スプリング式、クラッチ式などがある。

マグネット・スイッチ部



マグネット・スイッチの回路プルイン・コイル


プランジャを吸引するコイルである。

左図のように始動端子(S端子)よりつながれ、コネクティング・リード端子(C端子)からモータ部へつながれている。

ホールディング・コイルより電磁力が強い。


ホールディング・コイル


プランジャの吸引を助けるコイルである。

上図のようにプルイン・コイルと同じく始動端子よりつながれているが、ホールディング・コイルはマグネット・スイッチ内でアースされている。

ホールディング・コイルは、メイン・スイッチが閉じかけたときプルイン・コイルの磁力が消滅しプランジャを吸引できなくなるので、これを防止するために、いったんメイン・スイッチが閉じた後のプランジャの吸引を保持する役目をしている。



◎スタータの取り扱い



スタータは長時間連続して回すと焼損するので、注意が必要である。

通常10秒以内までで、JISでも連続運転時間の最大は30秒となっている。

したがって、10秒程回してもエンジン始動しない場合は他の原因を考える。

当たり前だが、エンジン始動中にスタータを回すとギヤやスタータ・ハウジングが破損する可能性があるので絶対にやってはいけない。

スタータの回転速度が規定以下の場合は、多くの場合がスタータ自体の故障、バッテリが弱い、ターミナルが緩んでるの何れかである。

スタータの回転速度は大体音を聞いて判断できる。

スタータの端子スタータを直結してエンジンをかける!?

よく聞く直結してエンジンをかけるというのは、キー・スイッチを経由せずにスタータを作動させることである。

方法は簡単で、導線などで始動端子(S)とB端子を短絡(ショート)させるだけである。

しかし、あくまでこれは強制的にスタータを回すだけなので、例えば実際のディーゼル・エンジンでは、燃料ポンプがインジェクション・ポンプまで燃料を供給できる状態になっていないとエンジンは始動できない。



作成日:2007/1